【公募川柳応募虎の巻/公募川柳入選のコツ】第4回 ハガキ応募・パソコン・スマホ応募での注意点 推敲による作品のブラッシュアップ【尾藤川柳さん】




川柳は、誰にでも簡単に始められます。公募川柳の行事も多く、比較的安易な応募も可能です。ただし応募した作品が入選するかしないかは、作品次第です。

今回は、幾つかの注意点についてお話ししましょう。

入選のコツ① 誤植・誤記の注意

応募される作品で、作者の思い違いによる誤記によく出会います。

たとえば、最近の投句で多いのが「コロナ禍」という言葉です。これは、新型コロナウイルス感染および流行により引き起こされた病気そのものや経済への影響を示す言葉ですが、間違えて「コロナ渦」という表記が少なくありません。次いで「コロナ過」という表記もあります。また、これは数少ないですが「コロナ鍋」という句の応募もありました。

内容とうまくマッチして笑えればそれもアリでしょうが、残念ながら応募者の単なる間違い表記であることが多いようです。

いずれの場合も「ころなか」という音で認識しているのでなく、文字の形で勝手に読んでしまっているのでしょう。

公募川柳では、公正を期する意味でも「直して入選」ということはできません

しっかりと正しい文字の使い方、誤字脱字の防止をする必要があります。

また、最近ではスマホやパソコンで応募される方も殖えています。こちらの場合には、誤変換が多く見られます。例えば、

「在宅ワーク」が「座痛区ワーク」になっていたり、「板橋区」が「板場敷く」などです。これもよく読めば誤変換と分かりますが、選者は、数万句にも及ぶ応募句を前に、意味不明の句に長くかかわることは出来ません。

今日では、予測変換などというシステムもあり、決定の押し違いで、とんでもない言葉が這入ってしまう可能性もあります。

葉書を投函する前に、また送信ボタンを押す前に、しっかりと作品の表記を確かめましょう。

入選しやすいハガキの要件

① 応募規定の記載事項を守る

応募規定に要求された項目を正しく守るのが第一。「住所」「氏名」「柳号(ペンネーム)」「年齢」「職業」「電話番号」などの作者の情報と「作品」を求められるのが普通です。

場合によっては「作品の説明」などを求められることがあります。

「作品の説明」を要求されていないのに、書くことはマイナスです。

また、「ハガキ一枚に1句」とか「ハガキ一枚に3句まで」といった制限がある場合、それ以上の作品を一枚のハガキで出すことは、ルール違反になり、選考の対象にならないこともあります。何より、読み難くなり、選者に対する印象も悪くなってしまいます。

② 自信を持って作品を書く

同じ作品でも、書き方一つでよく見えたり悪く見えたりすることがあります。

作品は、「読みやすく」かつ「自信を持って」書くことが句自体を良く感じさせるコツです。

 

一枚に一句を堂々と書くと、作品の意味とともに言わんとする作者の意思が伝わってきます。これに対し、多くの句を連記した例と比べてみると、一句一句の印象がまったく異なります。まして葉書に10句以上連記するなど、句を見て欲しいという意欲が伝わらず、ただ効率よく応募する事だけという感じがします。

良い句が目に付いて初めて入選です。選者や事務局の事を考えない応募作品は、一方的で落されてしまっても仕方ないかもしれません。

葉書の例からも多数の句を書いてしまうと、句と句が互いに主張しあい、一句の良さがストレートに伝わってこないことが判るでしょう。

通常は、ハガキに2句が良く見せる限界です。3句書く場合には、句と句の間の余白を生かすことが求められますね。

また、「達筆?」や「細い字」による作品も、川柳のよさを伝えるにはマイナスになる場合があります。

こんな場合、ワープロ文字は、作者の個性的魅力には欠けますが、選考する側には、とても見やすい表現になっています。

③ 応募作品に不要なもの

せっかくの作品が、よく見えてこない場合には、どんなものがあるのでしょう。

川柳作品のアピールより、それ以外の部分が目立ってしまう時に作品アピールが阻害されます。

たとえば、絵がある場合。

左の葉書は、余った年賀状を流用しました。有効活用は、いいのですが、余計な模様が目立って、句が何処にあるのか解り難くなっています。

二番目は、可愛い鳥の絵が描かれています。とても良い絵ですが、これに目を奪われて川柳の方がどこに書いてあるのかが判りにくいようです。

川柳作品以外の部分が目立っては、マイナス面こそあれ、句を良く見せることになりません。

これ以外に、句を枠で囲んで装飾したり、「①、②」や句の頭に「・」を入れたりすることも、選をするほうから見ると無意味で、むしろ、入選の記号を書き込む際の邪魔にもなってしまいます。

テレビやラジオの投稿で、ハガキを見せながら読んでもらうような場合と違って、公募川柳では、川柳作品そのものが勝負なのです。

④ 川柳に説明はいらない

川柳は、本来俳句と同様「十七音独立」の文芸です。したがって、「句の説明」を加えてはじめて鑑賞できるようなものでなく、十七音だけで、句から人情や心理、喜怒哀楽の情が伝わって来なければ、良い作品とは言えません。

まして、作者の個人的な作句経緯を添えることは、句の良い面を見て選考しようとする選者に、句のつまらなさを伝えてしまうことがあります。同じ十七音からでも選者の方が、もっと深く大きい世界を見出す場合があり、説明は概ねマイナス要因です。

もっと問題となるのは、わざわざ説明を加えることにより、視覚的にも一句が生き生きと伝わってこないということです。

上のハガキは、まだ川柳作品が大きく目立つように書かれているのでいいのですが、③に示した「句の説明」のハガキは、川柳とその説明、および投句者の情報がゴチャゴチャとしてしまい句の良さが伝わってくるより読む前から作品の質を予想してしまいかねません。

わずか十七音の勝負です。川柳のハガキ作品では、一句がスッキリと選者の目に伝わってくるよう、余計なコト、モノは書かず、句が選者の方に迫ってくるような書き方が、入選のコツの一つになるでしょう。

ネット応募での注意点

ハガキとは異なりネット上からの応募は、お金(ハガキ代)が掛かりません。その分、一句一句の品質より、数多く応募しようとしてしまう傾向があります。

・同じ句を何度も応募する

これは、送った句を忘れてしまって不注意でそうなったのか、送信ボタンを押したとき、送れたかどうかわからず、つい何度も押してしまったのか、はたまた意図的に何度も送っているのか判りませんが、いずれの場合も応募の中の「同一句」とみなされてしまう可能性があります。

「同一句は取らない」というのが、公募だけにとどまらず選における暗黙のルールです。

よっぽど良い句の場合、作者名を確認して同一作者であれば、入選候補に残すこともありますが、多くの場合、こういった何度も送信される句に良いものがあったためしはありません。

・一部を直して何句も応募する

作品の一部だけを直して送ってくる作者がいます。自分では、どちらが良いか判らないために、一部分を替えて送ってくるのかもしれません。

たとえば、

子も部下も ほめて育てる 令和かな

子も部下も ほめて育てる 令和なり

子も部下も ほめて育てる 令和の世

子も部下も ほめて育てる ワンチーム

といった句が今年のある応募句にありました。「かな」「なり」などどっちにした方がよいのでしょうか。また「の世」などと言ってみたり、ちょっと古い「ワンチーム」も使ってみました。残念ながら「子も部下も ほめて育てる」という概念は「令和」に限らず、また「ワンチーム」は、カビの生えた流行語です。

もともとどんなに直しても入選するレベルにはないのですが、一部を直す努力をされたようです。川柳は、前回に作句のプロセスを紹介しましたが、まず「見入れ」の発想と新鮮な題材が大切です。あまり部分をいじくりまわすことを考えるより、切り口をかえた「趣向」を考えることに時間を費やした方が良いでしょう。

 

どんな場合も応募する作品は「わが子」と思い、出した先で不具合を起こさない程度の推敲と身だしなみが必要でしょう。

応募が安易になった時代だからこそ、一句一句を大切にしてやってください。

 

公募川柳応募虎の巻/公募川柳入選のコツ

 

尾藤川柳さんプロフィール

尾藤川柳

十六代川柳。川柳公論社主宰。女子美術大学特別招聘教授。

1960年、東京生まれ。
15歳より「川柳公論」にて川柳入門、尾藤三柳に師事。24歳で十五代・脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰、2016年、師三柳の逝去により川柳公論社代表となり「川柳はいふう」を主宰。2017年、十五世川柳逝去によりその允可によって「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。
「社会の中の生きた川柳」というテーマで広く活動。
川柳普及の教室、著述、公募川柳選者を務め、川柳の行事企画者として2007年の「川柳250年」行事や、2009年の「川柳とマンガ—そのエスプリ—展」(群馬県立土屋文明記念文学館)2015年「柳多留250年」、2017年には「初代川柳生誕300年祭」、2019年には「北斎没後170年—北斎と川柳」行事など川柳の歴史文化発信の行事運営にあたる。
また、「川柳学」の推進により川柳文化の向上を目指すとともに川柳史料の散逸を防ぐため<朱雀洞文庫>(Web川柳博物館として公開)を整備して、史料の収集・保存・修復・研究・公開を行うなど川柳普及活動を行う。
著書に『川柳総合大事典』<用語編>および<人物編>(編著・2007)、『目で識る川柳250年』(2007)、『川柳のたのしみ』(2011)、『短冊の書き方と鑑賞』(2018)ほか入門的テキストや句集など多数。

ホームページ:

<ドクター川柳> http://www.doctor-senryu.com/
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