第二回 初めての句会
◉必ずおさえておきたいこと
○主催者への連絡
○持ち物
○小さな句会(地域の句会など)に参加する
○大きな句会(結社の句会など)に参加する
○カルチャー講座・地域の講座のいいところ
◉必ずおさえておきたいこと
句会とは?
① 評価してもらう場ではなく、学び・研鑽の場、または遊びの場である
② 句会にはそれぞれその句会らしい雰囲気があり、主催者(主宰)と構成員の信頼関係によってつくられる
③ 基本的にはオープンな場ではない
これらを理解していれば、句会で大きな失敗をすることはありません。
以下、どういうことか、何に気をつければいいのか、少し詳しく書いてみます。
①
今まで基本的に投稿というかたちで俳句と関わってきた方は「評価されに行く」という気持ちを一旦捨てることが大切だと思います。「○○で特選でした!」という自己紹介も、「へーそうなんですね」くらいのかんじです(どちらかといえば「好きな俳人は三橋鷹女です」とかの方が、話が弾む場合が多いです)。極端な言い方をすれば、一句単位の賞への投句と句会は、五目並べと囲碁くらい違います。同じ俳句にまつわるゲームですが、投稿して選ばれてきた実績や楽しみ方は通用しないと考えてください。
句会のタイプは様々ですが、どんなにラフな句会でも、「選ばれるかどうか」より「どうして選ばれたか/選ばれなかったか」を考えられることが、句会の面白さです。自分の句だけでなく、他の人の句への選評を聞き、自分の考えを更新していきましょう。句会のあとに「今日の句会では何点入った」「○○さんがとってくれた」といったツイートをする人がいますが、それは句会の内容の中心ではないのです。初めての句会で無点でも気を落とさず、高得点でも喜びすぎないようにしましょう。自分が高得点になる句会がいい句会、とは限りません。
とことん遊びの句会もあって、そこではお酒やご飯がおいしい、他ジャンルの人と仲良くなれるなど、別のよさがあると思います。自分が俳句と向き合う上で、ちょうどよいと思う句会を探しましょう。
②
句会に限らず、すでに出来上がったコミュニティに新参者として入っていく際に気をつけることがわかっていれば、とくに問題ありません。ただ、雰囲気に溶け込むようにするという、ここが案外難しいところでもあります。会場についたら、まずは挨拶から始めましょう。主宰や主催者には直接挨拶に行きましょう。
これまでの経験上、「緊張してあまりしゃべれなかった」という人は、そんなに失敗しているようには見えませんでした。どちらかといえば、「自分はよくしゃべる」「話すのが得意」という人は注意が必要です。句会は時間が限られていますから、新しく来たあなたがしゃべっている時間、今までのメンバーの話す時間が削られることになります。たとえあなたの発言が有益であったとしても、まだあなたはほかのみなさんとの信頼関係を築けていないので、ほかの人が驚いてしまうことがあるのです。
簡単な対策としては、その句会で2番目くらいにおとなしい人を探し、発言を求められたときも、その人くらいの時間話すようにする、というやり方があります。また、句会中ひとりでは心配な場合は、自分と同じくらいの年齢、性別の人を探し(主宰や司会者、幹事は忙しいので、ヒラの人)その人の横に座らせてもらい、わからない場合はその人に尋ねる、というのもいいと思います。句会にどんな人がいて、それぞれどういう話し方をしているか、注意深く観察し、しゃべりすぎないようにしましょう。
それから、いくら手書きが苦手であっても、ほかの人が全員手書きという句会で、いきなりノートパソコンでメモを取ったり、スマホで清記用紙の写真を撮ったりするのは控えましょう。そうしてはいけないのではなく、みんながびっくりするからです(字を書くのが苦手な事情があればさきに伝えておきましょう)。何度もその句会に参加してほかのメンバーとも馴染んできたら、手書きが不便でPCを使いたいのだが、のように、みんなに提案してみてください。私のやっていたある句会ではPCでメモをとる人もいて、うちの句会では問題なかったですが、効率が優先される句会もあれば、今までのやり方を大切にする句会もあります。何がよくて何はよくないかは、あなた一人の判断ではなく、その句会の雰囲気に応じて、主催者や構成員みんなで決めることです。
③
web上で「どなたでも歓迎です」と書かれた句会を見たことがある方も多いと思います。が、句会というのは公開イベントなどを除いて、基本的には内輪の会です。ここではふたつおさえておいていただきたいことがあります。
まずひとつめ。「句会に出した句は〈未発表〉扱い」という慣例があります。句会で他の方の意見を得て、もう一度推敲した上で雑誌などに活字として発表する、活字になって初めて〈既発表〉となる、ということです。
賞に応募したり、雑誌に寄稿したりする場合、〈未発表〉の作品を求められることが多いです。ですから、句会の選句用紙などを安易にweb上にアップしてはいけません。web上で不特定多数に見られる投稿は〈既発表〉と見なされるからです。また、ツイッターやブログなどで当日よかった句の感想を書きたいときには、句の作者に許可をとってから書くようにしてください。ご自身の作品に関しても、賞に応募する等の可能性がある作品に関しては、かるい気持ちでツイートしたりしないようにしましょう。内輪でつくられる句会報は、印刷されていたとしても〈未発表〉。流出しないようにしてください。
ふたつめ。②とも関連しますが、句会が信頼関係によって運営されているという性質上、新しい人は来ない方がラクなのです(新しい人と、それまでの構成員との信頼関係をゼロから構築しないで済むからです)。それでも、新しい人を歓迎するのには、わけがあります。その句会ごとの〈下心〉がある、と思ってください。結社であれば、会員を増やしたいというところが多いでしょう。これは、健全な下心です。同じ人同士の句会でマンネリ化していて、新しい視点がほしい、というのもまた、下心の一種です。私であれば、自分の好きなタイプの面白い人が来たら句会の場を超えて友達になりたい、という下心があります。自分で言いますが、はっきり言ってこういう主催者はちょっとキモいです。また、主催者以外の参加者で、すぐ友達になりたがる人がいるかもしれませんし、若い女性と仲良くしたい、とか、自分色に染めたい、という人までいるかもしれません。はじめからすごく褒められたりする場合は要注意です。本当にその人と仲良くなれるかは、慎重に見極めましょう。自分にプラスになることは取り入れ、マイナスになりそうなことは回避していくのが大切です。
続いて、具体的なシーンごとの注意点です。
○主催者への連絡
句会の主催者、あるいは幹事役の人とはじめて連絡をとるときは、丁寧なメールを心がけましょう。
はじめまして、【名前(俳号)】と申します。
【〜を見て/〜さんの紹介で】【句会名】に参加してみたいと思い、ご連絡差し上げました。
【句歴(一句単位の賞に応募したことはありますが、句会は初めてです、など)】
【なぜその句会に参加したいと思ったか(簡単でかまいません)】
【お題や句数など句会に関する質問事項などがあれば】
どうぞよろしくお願いします。
といったかんじでしょうか。
もし抵抗がなければ、年齢、性別がわかっていると、私はありがたかったです。
単純に、初めて来る人がどういう背格好の人かわかっていると心の準備がしやすい、話しかけやすいからです。とくに、性別がわからないタイプの俳号の場合、驚かせないために、あらかじめ伝えておいた方がいいかと思います。
また、事前投句の句会の場合、とくに初回の投句は〆切に遅れないように気をつけてください。初めから遅れると、信頼できない人だな、と思われます。
万が一、急に出席できなくなった場合や遅刻しそうな場合は、わかった時点ですみやかに連絡してください。そのために、当日連絡できる電話番号やメールアドレスを聞いておくようにしましょう。生活の中で句会より大切なことは多いので、キャンセル自体はやむを得ませんが、ドタキャンは論外です。
○持ち物
- 筆記用具
- 歳時記
- 電子辞書(あれば)
当日持ち寄りで清記する句会(事前投句でない句会)の場合
- 黒ボールペン
- 修正ペン
- 俳句
- メモ用の紙かノート
- 飲み物(公民館などの場合)
○小さな句会(地域の句会など)に参加する
参加予定の句会の構成メンバーがどういう人かをあらかじめ把握しておくようにするといいと思います。先生的な存在がいるのであれば、その人について調べるなどして、自分と価値観がまったく合わない、ということのないようにしたいですね。句会では、俳句以外の雑談もある場合があります。「俳句に興味があると言ったら友達に句会に誘われたが、自分以外はみな同じ会社の同僚同士で、社内の話などについていけず、句会がいやになった」みたいなことにならないように、探りを入れておいてください。
句会によっては高齢化などで人数が減ってしまい、新しい人の参加を切望していることがあり、一度行くと名簿に登録されてしまったりします。参加を強要されて負担にならないように、距離の取り方を考えてください。
○大きな句会(結社の句会など)に参加する
前述の通り、結社の句会は会員獲得のために初めての人の句会参加を受け入れています。新しく来たあなたがいいかんじであればぜひ入ってほしいと思って接し、逆に結社の雰囲気と合わなさそうな人であれば、ご遠慮いただきたいなぁと思いながら接する可能性が高いです。よって、もし、行ってみたけれど対応がそっけなかった、というときには、合わなかったと思えばいいわけですが、そもそもその結社や主宰に興味がないのに句会にだけ参加してみたいという人には、親切にも限度があると思った方がいいです。入会するつもりがゼロなら、その結社の句会に行くのは控えた方がいいわけです。もし、今は結社に入るつもりはないが、まずは句会だけ体験してみたいという場合は、その旨先に伝えるようにしましょう。その場合でも、その結社の主宰の代表句や師系くらいは知っておいた方がいいと思います。結社の句会に参加するのは、主宰の選を受け、主宰やその結社の作品や考え、価値観を学びに行くことだと考えてください。もし、その結社に入るか迷っている場合は、句会の雰囲気が自分に合うか、会員の作品が面白いかなど、継続して参加したいか吟味しましょう。
結社に所属している人が、他の結社の句会に行くのは、基本的には避けた方が無難です。結社というのは、主宰と会員の一対一の師弟関係、さらに会員同士の信頼関係(場合によっては上下関係)で成り立っているので、あなたがほかの結社に入るかも?みたいになるとそのへんの関係性が微妙になるからです。そんなことは気にしない、どんどんほかの句会にも出てみたらいいとおっしゃる主宰もいらっしゃるかもしれませんが、受け入れ側がそう思っているとは限りません。もし他の結社の句会にどうしても行きたい場合は、自分の結社の主宰にも、相手の結社の主宰にも、なぜそうしたいかを伝えておいた方がいいと思います。
どんな句会でもそうですが、とくに参加者が20名を超える句会では、聞き取りやすいように話すことが肝要です。なかにはご高齢の方もいらっしゃるので、大きな声でゆっくり話しましょう。「作者は?」と聞かれて名乗るときは、大きな声で俳号を言いましょう。「はい」では誰の句かわかりません。
また、主宰を独り占めするようなことにならないよう気をつけてください。いきなりノートを持って行って「この中からいい句を選んでください」というようなことはやめましょう。
その他、句会についてわからないことがあれば、あらかじめまとめて聞いておきましょう。
○カルチャー講座のいいところ
いきなり句会に参加するのが不安という人は、カルチャー講座に行ってみる手があります。だいたいの場合、何回かで一区切りになるので、もし合わなければそのタームだけでやめればいいので気楽です。先生がどこかの結社の同人や主宰であっても、その結社に入る必要はありませんし、もしその先生が合うなら、その先生の結社の句会の情報を教えてもらったり、結社誌を見せてもらったりできると思います。また、ほかの生徒さんに紹介してもらって、別の気楽な句会に参加させてもらうこともできるかもしれません。カルチャー講座は割高ですが、基本的なことを学ぶことができ、あとくされなくやめることも、俳句友達をつくることもできるという意味では、悪くない選択といえるでしょう。
*句会のやり方については、私の本で恐縮ですが、『俳句を遊べ!』(小学館)などをご参考になさってください。
次回は、句会の二次会やネット句会などの心得についてです。