第一回 はじめに
ひとりで細々と俳句を始めてみたら、思いのほかハマってしまい、ラジオで読んでもらったり、賞に入選したりするようになった。そろそろ噂に聞く句会とやらに行ってみたい。でも、句会ってどんなところだろう。何人くらいの人がいて、みんなどれくらいしゃべるんだろうか。友達、できるかなぁ。実は自分は今まで人付き合いが苦手で、それもあってひとりでできる趣味として俳句を選んだのだけれど、うーん、俳句をもっと楽しむためには、人とうまくやらないといけないのか……。
そんな人のために、この文章を書き始めます。
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私の句会デビューは約20年前、中学生のときでした。当時、夏井いつきさんがお住まいだったマンションの一室で行われていた句会です。社会人と学生のためのFAX句会「俳句の缶づめ」にも投稿していました。今だったらFAXでなくネット句会ですね。どちらも、学校の友達以外の、大人の俳句仲間ができることにワクワクしたのを覚えています。その後、中学で一緒に俳句をやっていた友達と高校の俳句部に入り、俳句甲子園に出場しました。大学では、俳句甲子園で友達になった子たちと、句会をやりまくりました。大学を卒業してからもだいたいの場合、自分が進行役をするかたちで、句会をやってきました。今では、素晴らしい俳句友達がたくさんいます。
しかし、俳句以外ではどうかと言うと、私は中学・高校・大学時代の、同性の友達の結婚式に呼ばれたことがありません。つまり私は、私とずっと仲良くしていたい、と思ってくれる子と、あまり仲良くなれなかった。仲がいいと思っていた子が急に離れて行ったり、同じクラスで誰ともペアをつくれなかったり、陰口を言われたりもしました。ただ、今にして思えば、多くの場合、私の性格や言動に少なからず問題がありました。それがわかるようになったのは、私の対人関係スキルが、俳句の人間関係の中で向上したからです。
考えてみれば俳句でも、生意気という言葉を人間のかたちにしたかのような若者だったと思います。もともと司会のようなことをやるのが好きだという性格に加えて、同じ年頃の友達の中では比較的はやくから俳句をやっていたので、人より句会慣れしていることもあり、とくに同年代以下との句会においては、えらそうなものの言い方をした場面も多かったと反省しています。ほかの句会においても、大先輩に対してよくもまぁ、というような発言をして、まわりからたしなめられたことも、その人から怒られたこともあります。そんなことがあっても、よくみんな、私と仲良くしてくれているなぁと、感謝しかありません。
でも、そういえば、私も対人関係で嫌な思いをしたことがあるし、私以外の人の失敗も、いろいろ見てきました。当人が思うほどでもない軽いミスから、もうこの人とは関わりたくないというほどの失敗までありました。ただ、少なくともその人が失敗したと思って反省して次から気をつけたり、ちゃんと謝ったりすれば、許してもらえることがほとんどでした。私もたびたび反省し、謝って、許してもらってきました。
要するに、俳句について真剣であれば、俳句の仲間は寛容であるということ。そして、句会は俳句の研鑽の場、俳句を楽しむ場であると同時に、人との関係性など、俳句以外にも学ぶことが多い場であるということです。
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俳句では、「季語をふたつ入れない」とか「中八は避けよう」のような、よく聞くハウツーがありますね。ハウツーというのは、まだそのジャンルについて全然知らない人がすぐにある程度に達するための方法で、禁止事項が多くあります。案外そこでは禁止されているようなやり方でつくられた作品の魅力こそが凄かったりするものですが、タブーとされるやり方を試す前にそのハウツーが使われるわけをしっかり考えることが、俳句の深い理解につながるとも言えます。
そこで私は、今回〈句会参加のハウツー〉を作ろうと思い立ちました。
とにかくまず、一度目の句会で大きな失敗をせず、いいかんじにやりきること。その後、定期的に句会に参加する際、気をつけておくべきこと。句会を自分でやってみるときにはどうすればいいか。さらに、句会という場を超えて、俳句の仲間とかけがえのない友達になるには。この20年間で得た経験をもとに、あえて禁止事項も多めに書いてみます。もちろん俳句同様、例外の方に旨味があるわけですが、こちらも俳句同様、なぜそれがよくないのかを考えることで、俳句以外の人間関係にも応用できるようにしたいと思います。
句会が初めての方だけでなく、まだ参加するたびに緊張してしまうという人、いつもの句会には慣れたが他の句会に行ってみたい人や、句会の運営をしている人まで、いろいろな立場で句会に参加する人が、一緒に考える場になれば嬉しいです。