小さな公募川柳でも1000句を下らず、大きな公募川柳では10万句を超える作品が集まります。こんな中で「めだつ」作品を作らなければ、なかなか<大賞>の栄誉に浴することができません。
どうすれば、並み居る猛者の作品を抜けて、選者や選考会の目に留まるかが勝負になります。
今回は、予選を通過し受賞句の候補に残るためのヒントを考えてみましょう。
選者の目から
長く川柳公募の選者をしてきましたが、いつも感じる事は、広い砂浜でダイヤモンドの粒を捜す行為に似ているということでしょう。
というのは、応募された作品の多くは、ごくありふれた同想の表現が多く、中にはかつての公募で入選した作品であることにすぐ気づかされる作品も混ざっています。こういった作品は、一次選考で足切の対象になってしまいます。
時代を捉え、テーマに適い、主催者の意図(企業であれば広告価値やイメージ戦略、公共団体であれば行事主旨等)にマッチした十七音を生み出すには、ちょっとした思い付きでの応募であったり、数だけ多く出して見たというだけだったりしたのでは、選に引っかかるのは難しいでしょう。
そこで、作品が出来た時に、その作品が選を通るかどうかをチェックするポイントを幾つか挙げてみましょう。
このチェックを行って、すべて通過するようなら、まずまず可能性がある作品と言えるでしょう。
公募川柳虎の巻 〈基本チェックポイント7章〉
まず、一次選考を通過するための基本的チェックポイントです。
1、募集テーマを捉えているか。
予選通過の第一条件です。たとえば「マネー川柳」という公募で、作っている内にマネーとは直接響き合わない世界が十七音になってしまったら、それは川柳としてどんなに素晴らしい作品であったとしても入選の可能性はほとんどないでしょう。
「テーマを捉える」とは、作品に直接テーマを描かなくても、それが言外に感じられるということです。もちろん、直接テーマに関わる語句を使うこともかまいません。
2、川柳の定型、リズムが守られているか。
川柳には、「十七音」ないし「575」というリズムがあります。本来これは、公募という競技場の土俵です。近年の公募では、むやみに破調の句が入賞していることも見かけますが、その多くは、川柳の専門家でない「事務局選」といった場合で、公式な選者が居る場合には、リズムも大切にされます。
最初から土俵を出てしまうようなダラダラとした字余りの作品は、本来選考の対象にはできません。良いリズムの句の中に真の名句が生まれます。
3、読みやすい字で書かれているか。
これはハガキ等の場合ですが、達筆でも読みにくい文字は、損でしょう。たくさんの応募がある場合など、じっくりと解読してもらえず、捨てられてしまうかもしれません。
また、沢山の句を小さな用紙に書いたりすると、読みにくくなること必定です。読み難いというのは、選をする際に「感じてもらいにくい」ということにもつながります。丁寧に楷書で書くことをお勧めします。
また、ネット応募でも共通ですが、誤字、誤植、当て字などは、直して取ってもらうことは原則ありませんので、しっかりと辞書などで確認することが大切です。
4、余計な説明をしてしまっていないか。
本来句に説明は不要です。読者が十七音から感じるものが全てで、作句の裏側を説明をして解ってもらうようでは、良い句とは言えません。
また、説明に要する余計な部分で、句の良さがないがしろになって目立たなくしまうこともあります。
主催者から「説明」を求められない限り注意しましょう。
5、句以外の無駄な絵や飾りを入れていないか。
川柳は、詩であって文章ではありません。「、」「。」や「?」「!」などなくとも通用します。また「・」や「○」、「1.」「①」など句の頭に書かれる人がいます。これも邪魔なだけで、句の内容と一切かかわりありません。
ましてや、「‥‥‥‥」や「―――――」など文字の脇に添えたり、枠で句を囲うことや、挿絵を添えることなどもっての外です。
シンプル イズ ベストです。
6、盗作、類句になっていないか。
これは、投稿者の倫理ですね。他者のアイディアを盗むのは、表現者として恥ずかしい事でありモラルなきところには入選もおぼつきません。
かつて、リクルート事件の折には、「リクルートどこまで続くぬかるみぞ」という句が無数に生まれ、応募されました。これは、ニュースのフレーズを句にしたようなもので、盗句であるかどうか判りませんが、ともかく多いのです。
また、マネー川柳では「ATM利子より高い手数料」というそっくりの句(同想句)が何百句も届きました。この句は、翌年まで同じ句が応募されていました。前年はともかく、翌年は、間違いなく盗作とみなされてしまいます。
誰でも思いつきそうな通り一遍の作品は、選者の立場では入選させるのを用心する句として意識しています。
7、二重投稿になっていないか。
「二重投稿」も投句作家としては、恥です。
どこかに出した作品を流用するというのは、本来無駄です。入選しなかったのには、その作品に落ちる理由があったからです。もし、どこかに入選した作品を別の公募に応募してしまったのであれば、それは規定違反です。
もう一つの場合として「マネー川柳」と「税金川柳」といった似たテーマの公募があり、テーマに共通で当てはまる句が生まれて両方に出してしまった…というのは、モラル違反です。
万が一、先に入選が決まったら、もう一方は投句辞退の連絡をしなければ規定違反になります。
作者は、何時、何所にどんな作品を応募したかという「句帳」ないし「データベース」を作っておいて、同じ作品が二重投稿にならぬよう管理する義務があります。
それが出来て、初めて真の投句マニヤということができますね。
公募川柳虎の巻 〈入賞のコツ7章〉
先の7章で一次選考合格圏の句ということができるでしょう。
それだけでは、賞金や賞品をゲットできる高点句とはなりません。次に、入賞するためのヒントについて考えてみましょう。
1、時代を捉えているか。
まず一番大事なことは、「時代を捉える」「今を捉える」ということです。同じ公募では、テーマが毎年共通の場合があります。昨年も通用したような内容では、新鮮味がありません。
時代を捉えるには、時事的な話題や事象を取り入れる事、その時々の新語、流行語などを使ってみる事です。それだけでもかなりの効果があります。
ただし、流行語等は、多くの作者が狙って使います。巧く個性を出さねば通用しないでしょう。
2、前向きな表現か。(否定的でないこと)
文芸としての川柳では、諷刺や否定表現も効果的です。
しかし、こと公募川柳という土俵では、テーマに対して否定的な表現は、マイナスに感じられてしまうことがあります。
同じテーマでも、肯定的ないし前向きな作品が好まれるのは、主催者が川柳公募を企画した意図と適いやすいということができるでしょう。
時事川柳では、政治家、特に減力を持つ強い立場への諷刺は痛快ですが、公募川柳では、個人が特定されるような対象を諷刺すると、企業の立場上相応しくない句とみられてしまうこともあります。
「受賞」ということを狙うのであれば、物事の捉え方として前向きな表現の句に可能性が高いということになります。
3、説明調、報告調になっていないか。
これは、基本と言えますが、十七音での説明や報告は、文字の意味以上の言外に感じられる余韻が生まれません。意味だけの作品は、どうしても小さく見えてしまいます。
説明調、報告調を脱するのに有効なのが「描写体」でした。
チョッとした表現の違いにより、生き生きとした作品になる場合があります。前回の講座を御覧ください。
4、言葉遊び、駄洒落にも内容があるか。
川柳は、言葉遊びではありませんが、内容がある言葉遊びや駄洒落なら、それは一つの作品になります。文芸としての川柳では、嫌われることのある言葉遊びを駆使することも公募では効果的です。
ただし、言葉遊びの面白さだけで笑わせるのではなく、その奥に真実を掴んだ内容が必要です。
5、共感が得られる趣向があるか。
独りよがりはいけません。自分だけの思い込みで句を作っても、読み手が「なるほど」と思わなければ無意味です。僅か十七音しかありませんので、作者の主張ばかり目立つと、それはただの一方的コトバにしかすぎなくなってしまうことが有ります。共感あっての川柳です。
また、諷刺もほどほどに。川柳は、諷刺の文芸の様に思われることもあります。新聞などの時事川柳なら、諷刺も効果的です。ところが、主催者として企業などが存在する場合、ある方向の諷刺は、主催者にとって不都合に働く場合があります。ある意味、公募川柳では、主催者の貌が絶たないような川柳は「アウト」です。
かつて、私も選者として時代を捉えた風刺の句を受賞句へ推薦したことがありましたが、その時、会社側の方が、「この句を受賞させてしまうことは、当社の主張と誤解されることもあり、諷刺された会社と当社の関係に問題が生じそうです」ということで、庶民感覚としては、実に痛快な時事諷刺句でしたが、闇に葬られてしまったことが有ります。
主催者あっての公募です。ここは、競吟の場です。土俵への忖度も必要なのです。
6、 斬新さがあるか。
「斬新さ」とは、過去の句にはないオリジナリティです。誰かが既に考えたような視点では、新しさは得られません。
そんな時に有効なのは、「新語」や「流行語」でしたね。もちろんコトバの新しさは、何よりも大切ですが、この部分は多くの投稿者がもう狙って使ってきます。
そこで、次の手段として、「モノの見方」「捉え方」の新しさや珍奇さが勝負になります。同じ視点でものを見ていたのでは、句を作ることが上手で公募に慣れた「投句の猛者」に取られてしまいます。でも、モノの見方であれば、オリジナリティも示しやすい部分です。「ヘソ曲り」の視点で、チョッと物事を斜めから、またウラから見てみると新しい切り口が見えてくるでしょう。
7、 アイロニーはあるか。
「アイロニー」は、江戸川柳からの川柳の本質のひとつです。矛盾を捉えた笑いということも出来るでしょう。
孝行をしたい時分に親はなし
という江戸の川柳は、「誰もが親に孝行をしたい」という共通の思いと、平均寿命が40歳に満たなかったという当時の江戸において、「大人になり少し力が着いた頃には親が居ない」という現実のギャップを描いたもので、このほろ苦い矛盾から生まれる自嘲が、多くの共感となったわけです。
一番つまらない句は、当たり前に「何がどうした」とか「そうしたからこうなった」といった予定調和の報告や説明の内容しかない川柳です。
ところが、公募川柳の多くは、このレベルにとどまっています。
当たり前の世界の中から、他者が気付かない矛盾を捉えた時、そこに新しい笑いが生れる筈です。川柳の奥義は「アイロニーにあり」といってもいいかもしれません。
「めだつ」句は、言葉のオリジナリティーと捉え方のオリジナリティにありますね。
これらの「チェックポイント」と照らし合わせて通過した貴方の「その作品」は、きっと予選を通過し、かならず受賞句検討の土俵に上がっている事でしょう。
皆様の健闘を祈るばかりです。
#37 公募川柳のコツ〜其の肆〜 落ちないための
#38 公募川柳のコツ〜最終回〜
尾藤川柳
十六代川柳。川柳公論社主宰。女子美術大学特別招聘教授。
1960年、東京生まれ。
15歳より「川柳公論」にて川柳入門、尾藤三柳に師事。24歳で十五代・脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰、2016年、師三柳の逝去により川柳公論社代表となり「川柳はいふう」を主宰。2017年、十五世川柳逝去によりその允可によって「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。
「社会の中の生きた川柳」というテーマで広く活動。
川柳普及の教室、著述、公募川柳選者を務め、川柳の行事企画者として2007年の「川柳250年」行事や、2009年の「川柳とマンガ—そのエスプリ—展」(群馬県立土屋文明記念文学館)2015年「柳多留250年」、2017年には「初代川柳生誕300年祭」、2019年には「北斎没後170年—北斎と川柳」行事など川柳の歴史文化発信の行事運営にあたる。
また、「川柳学」の推進により川柳文化の向上を目指すとともに川柳史料の散逸を防ぐため<朱雀洞文庫>(Web川柳博物館として公開)を整備して、史料の収集・保存・修復・研究・公開を行うなど川柳普及活動を行う。
著書に『川柳総合大事典』<用語編>および<人物編>(編著・2007)、『目で識る川柳250年』(2007)、『川柳のたのしみ』(2011)、『短冊の書き方と鑑賞』(2018)ほか入門的テキストや句集など多数。
ホームページ:
<ドクター川柳> http://www.doctor-senryu.com/
フェイスブック<尾藤川柳> https://www.facebook.com/senryu.bitoh
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